カンピロバクター食中毒とは?~見落としやすいけれど最多の細菌性腸炎~
◆ カンピロバクターとは
カンピロバクター(Campylobacter jejuni など)は、鶏や牛など動物の腸内に常在する細菌で、人には主に食中毒として感染します。わが国の細菌性食中毒の原因として最多であり、厚生労働省の統計では食中毒事件数の3~4割を占める年もあるほどです。
◆ 感染経路と発症までの流れ
主な感染源は以下の通りです。
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加熱不十分な鶏肉・鶏レバー
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汚染された調理器具や手指からの交差汚染
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犬や猫などのペットからの接触感染(特に幼児)
感染後、通常2~5日間の潜伏期を経て、発熱・下痢・腹痛などが出現します。一部では血便や強い下痢、まれにギラン・バレー症候群を発症することもあります。
◆ 疫学:なぜ日本で多いのか?
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鶏肉の生食文化(例:鶏刺し・タタキ)
→ カンピロバクターは鶏の約4~6割の腸内に常在しており、肉の表面に菌が存在している可能性が高い。 -
若年層・男性に多い
→ 外食やバーベキューなどで鶏肉の生焼け摂取が原因となることが多く、厚労省報告では20~30代男性が最多。 -
年間を通じて発生
→ 特に初夏~初秋に多発する傾向あり(気温上昇と調理環境の悪化が一因とされる)。
◆ 治療と注意点
軽症例では対症療法(整腸剤・水分補給)で自然軽快しますが、以下のケースでは抗菌薬の使用が考慮されます。
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高熱や血便が続く中等症以上
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免疫低下状態(高齢者、糖尿病患者など)
**第一選択薬はマクロライド系(アジスロマイシンなど)**で、ニューキノロンは耐性例が増加傾向にあるため注意が必要です。
◆ 予防法のポイント
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鶏肉・鶏レバーは中心部までしっかり加熱(75℃で1分以上)
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調理器具・手指の十分な洗浄と消毒
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ペットの排泄物などへの接触後は速やかな手洗い
◆ 医師としての視点
カンピロバクターは、小児・若年層での軽症例から、高齢者の脱水・敗血症まで幅広い病態をとり得ます。さらに、ギラン・バレー症候群のリスクがあるため、医師としては**「ただの下痢」と軽視しない観察と説明**が重要です。感染源を問診で突き止め、同居家族や職場への感染防止指導も忘れずに行うべきです。
◆ 参考文献(Evidence)
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厚生労働省 食中毒統計資料(2023年版)
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国立感染症研究所 感染症発生動向調査(IDWR)
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Guerrant RL et al. "Campylobacter jejuni: pathogenesis and immunity." Clin Microbiol Rev. 1992.
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日本感染症学会. 「感染症治療ガイドライン 2023」
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EFSA and ECDC. "The European Union One Health 2022 Zoonoses Report"
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