なぜ睡眠不足で太るのか?医学的に解説する“睡眠と肥満”の深い関係
「運動しているのに痩せない」「食事に気をつけているのに体重が減らない」
そんなとき、見落とされがちな要因が「睡眠不足」です。睡眠は単なる休息ではなく、体の代謝やホルモンバランスを整える大切な時間です。ここでは、医学的な研究結果をもとに、睡眠不足と肥満の関係を解説します。
睡眠不足と食欲ホルモンの乱れ
睡眠不足になると、食欲を増進させるホルモン「グレリン」が増え、満腹感を伝える「レプチン」が減ります。その結果、食欲が抑えにくくなり、特に高カロリーで脂っこいものや甘いものを欲しやすくなります。
アメリカの研究では、睡眠が5時間しか取れない人は、8時間眠った人に比べて平均300〜500kcalも多く食べていたと報告されています。
睡眠と脳の働き
睡眠不足は脳の「前頭前野」という理性を司る部分の働きを鈍らせます。食べ物の誘惑に打ち勝ちにくくなる一方で、快楽を感じる脳の「報酬系」は過剰に活性化します。つまり、「甘い・脂っこい食べ物=快感」という結びつきが強まり、暴食につながってしまいます。
睡眠と代謝の低下
深い睡眠の間には成長ホルモンが分泌され、脂肪分解や筋肉の修復が行われます。睡眠不足ではこの成長ホルモンが不足し、脂肪燃焼が進みにくくなります。また、自律神経のバランスが崩れ、交感神経が優位になることでインスリンの働きが低下し、内臓脂肪が蓄積しやすくなります。
エビデンスから見える肥満リスク
「睡眠が短い人ほど太りやすい」というデータは世界的に数多く存在します。日本でも6時間未満の睡眠時間の人は、7〜8時間眠る人より肥満の割合が高いと報告されています。複数の研究をまとめた解析では、短時間睡眠は肥満リスクを約1.5倍に高めることが示されています。
睡眠不足が引き起こす生活習慣病
肥満だけでなく、睡眠不足は糖尿病・高血圧・脂質異常症といった生活習慣病のリスクも高めます。特に糖尿病では、短時間睡眠がインスリン抵抗性を悪化させることが知られています。長期的には心筋梗塞や脳卒中など、命に関わる病気のリスクにもつながります。
良質な睡眠をとるための工夫
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睡眠時間は7〜8時間を目安にする
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就寝前のスマホ・PCの使用を控える
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午後以降はカフェインを避ける
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起床・就寝の時刻を一定に保つ
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日中に軽い運動を取り入れる
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アルコールは寝付きが良くなる反面、眠りの質を下げるため控える
睡眠を整えるメリット
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食欲のコントロールがしやすくなる
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脂肪燃焼が進み、筋肉が維持されやすい
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自律神経が整い、生活習慣病予防になる
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集中力や記憶力、免疫力が向上する
まとめ
睡眠不足は「太りやすい体質」を作り出す大きな要因です。食欲ホルモンの乱れ、代謝低下、自律神経の不調など、体のさまざまなシステムに影響を及ぼします。肥満対策や健康維持のためには、まず「しっかり眠る」ことがとても重要です。
参考文献
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Spiegel K, et al. Lancet. 1999.
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Cappuccio FP, et al. Sleep. 2008.
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Tasali E, et al. Diabetes Care. 2014.
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Itani O, et al. Sleep Med. 2017.
