銀杏中毒について総説
銀杏中毒について総説
[2025.10.04]
秋から冬にかけて旬を迎える銀杏は、茶碗蒸しや炒り銀杏などで親しまれています。しかし食べ過ぎにより「銀杏中毒」を起こすことが知られています。これは古くから日本で繰り返し報告されてきた食中毒であり、特に小児では重症化する可能性があるため注意が必要です。
銀杏中毒の原因成分
銀杏の種子には「4′-メトキシピリドキシン(MPN, ginkgotoxin)」が含まれています。
- MPNはビタミンB6(ピリドキシン)の拮抗物質で、GABA合成酵素(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)を阻害します。
- その結果、抑制性神経伝達物質であるGABAが減少し、中枢神経系の過興奮から痙攣を引き起こします。
発生頻度と年次推移
- 厚生労働省の自然毒統計では、毎年数件~十数件の食中毒事例が報告されています。
- 多くは家庭内での摂取に関連し、飲食店での事例は稀です。
- 特に秋の行楽シーズン(10〜12月)に集中しています。
症例報告の特徴
- 小児例では7粒前後の摂取で痙攣を起こした症例が多数報告されています。
- 例:3歳児が7粒摂取後に嘔吐・痙攣を呈し、ピリドキシン投与で回復した報告(Hasegawa M, 1986)。
- 成人例では40粒程度の大量摂取が契機となることが多いですが、飲酒と併発して中毒を起こすことも知られています。
- 経過は一過性で、適切に対応すれば予後は良好です。
主な症状
- 消化器症状:嘔吐、下痢、腹痛
- 神経症状:めまい、頭痛、意識障害、けいれん
- 発症までの時間:摂取後1~12時間以内
- 重症例:痙攣重積に至り集中治療を要した例も報告あり
診断のポイント
- 「銀杏を食べた既往」が最重要。
- 症状が消化器+痙攣を伴う場合、特に小児では銀杏中毒を疑う。
- 血液検査で特異的マーカーはなく、臨床診断が中心。
鑑別疾患
- てんかん発作
- 熱性けいれん
- 他の自然毒中毒(トリカブト、きのこ類など)
- 感染性胃腸炎
治療
- 対症療法が基本。
- 痙攣にはジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬剤。
- 重症例ではピリドキシン(ビタミンB6)静注が有効とされており、多数の症例報告で痙攣改善が確認されています。
- 胃洗浄や活性炭投与は発症初期に検討されることがあります。
摂取許容量の目安
- 小児:7粒前後で発症例あり
- 成人:40粒前後で発症例あり
(ただし個人差が大きいため、安全量は「存在しない」とされています)
予防のために
- 子どもには銀杏を食べさせない、もしくは極めて少量にとどめる。
- 大人も食べ過ぎは避ける。
- 保存状態により毒性が変化する可能性があるため、古い銀杏の摂取は控える。
- 調理済みでも中毒リスクは残るため「炒れば安全」という誤解を避ける。
参考文献(エビデンス)
- 厚生労働省:自然毒のリスクプロファイル「ギンナン」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188370.html - 日本中毒学会:自然毒中毒ガイドライン
- Hasegawa M, et al. Ginkgo seed poisoning. Pediatrics. 1986;77(5):782-785.
- Okamoto K, et al. Convulsions due to ingestion of ginkgo seeds. Pediatrics International. 2006;48(6):616-618.
- 宮田昌彦ほか:ギンナン中毒の臨床的検討. 小児科臨床. 1997;50(5):1031-1036.
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