線維筋痛症とは?
[2025.10.11]
慢性的な全身の痛みを特徴とする「線維筋痛症(Fibromyalgia)」は、見た目には異常がないにもかかわらず、痛みや倦怠感、睡眠障害などが続く疾患です。日本では厚生労働省研究班の住民調査で、有病率は人口の約1.7%(約200万人)と推計されており(参考文献1)、特に中年以降の女性に多くみられます。
症状の特徴
- 全身に広がる慢性的な痛み(3か月以上持続)
- 朝のこわばりや関節痛に似た症状
- 睡眠の質の低下(熟睡できない)
- 強い倦怠感、集中力低下、頭痛、過敏性腸症候群などの併存症状
特徴的なのは「痛みの部位が移動したり変化する」こと。整形外科やリウマチ科を受診しても異常が見つからず、最終的に線維筋痛症と診断されるケースが少なくありません。
診断基準
日本では「アメリカリウマチ学会(ACR)1990年分類基準」と「ACR 2010年予備診断基準」の両方がよく用いられています(参考文献1)。
2010年予備診断基準では、以下の2つのスコアを組み合わせて評価します。
- WPI(広範痛スコア):痛みの部位数を0〜19点で評価
- SS(症状重症度スコア):疲労・睡眠障害・認知症状などを0〜12点で評価
2つのスコアの組み合わせが基準を満たし、他の疾患で説明できない場合に線維筋痛症と診断されます。
原因と病態の理解
線維筋痛症の原因は「神経の感作(central sensitization)」と呼ばれる痛みの増幅が主因と考えられています。
つまり、末梢組織の損傷ではなく、脳や脊髄の「痛み信号処理システム」が過敏になっている状態です。
主な病態メカニズム:
- 脳内セロトニン・ノルアドレナリン系の異常
- 視床下部-下垂体-副腎系(HPA軸)の機能低下
- 睡眠障害による疼痛閾値の低下
- ストレス・感染・外傷などの誘因
MRIやPETによる脳画像研究では、線維筋痛症患者の「島皮質・前帯状皮質」で活動の亢進が報告されています。
治療の基本方針
日本では「多面的アプローチ」が推奨されています。単独治療では十分な効果が得にくいため、薬物療法・非薬物療法を組み合わせます。
薬物療法(保険適応を中心に)
薬剤名 | 作用機序 | 特徴 |
|---|---|---|
プレガバリン(リリカ) | 神経興奮抑制 | 線維筋痛症に伴う疼痛に保険適応あり |
デュロキセチン(サインバルタ) | SNRI | 線維筋痛症に伴う疼痛に保険適応あり。慢性疼痛と抑うつを併せ持つ患者にも有効 |
アミトリプチリン | 三環系抗うつ薬 | 海外では第一選択の一つ(低用量投与) |
トラマドール | 弱オピオイド | 短期使用で効果あり。ただし依存に注意 |
NSAIDsやステロイドは効果が乏しく、長期使用は推奨されていません。
非薬物療法
- 認知行動療法(CBT):痛みの受け止め方を再構築
- 有酸素運動(ウォーキング・ヨガ・ストレッチ):痛みの閾値を上げる
- 睡眠衛生指導:夜間の覚醒を減らし疼痛を軽減
欧州リウマチ学会(EULAR)の改訂版推奨(参考文献2)では、まず患者教育と非薬物療法から始めることとされ、治療法の中で「強い推奨」とされたのは運動療法のみです。効果が不十分な場合に追加する心理療法(認知行動療法など)や薬物療法は「弱い推奨」とされ、症状に応じて個別に選ぶこととされています。
治療のゴール
「痛みをゼロにする」ことよりも、「痛みと共に生活の質を維持する」ことが現実的な目標です。
定期的な運動や睡眠リズムを整えることは、薬物療法と並んで症状のコントロールに大切です。
線維筋痛症は「心の病」ではない
かつて「心因性」と誤解されることもありましたが、現在では脳の痛みの回路が過敏になる「中枢性感作」が関わる疾患と考えられています(参考文献1)。精神的ストレスは痛みを悪化させる要因の一つとされています。
まとめ
線維筋痛症は、痛みの「過敏な神経回路」が原因となる慢性疾患です。
診断には専門的な評価が必要で、治療は薬物と非薬物を組み合わせることが鍵となります。
自己判断で鎮痛剤を増量するのではなく、専門の医療機関や内科での継続的なフォローが大切です。
参考文献(エビデンス)
- 公益財団法人日本リウマチ財団 リウマチ情報センター「線維筋痛症」(https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/illness/fm/)
- Macfarlane GJ et al. EULAR revised recommendations for the management of fibromyalgia. Ann Rheum Dis. 2017;76(2):318–328.
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※2026年9月23日 訂正:参考文献の表記を確認し、誤りを修正しました。
※2026年10月2日 訂正:有病率、治療薬の保険適応、診断基準の名称と判定方法、病態の説明、欧州リウマチ学会の推奨内容および参考文献を確認し、修正しました。