線維筋痛症とは?
慢性的な全身の痛みを特徴とする「線維筋痛症(Fibromyalgia)」は、見た目には異常がないにもかかわらず、痛みや倦怠感、睡眠障害などが続く疾患です。日本では10万人あたり約100人前後の有病率とされ、特に中年以降の女性に多くみられます。
症状の特徴
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全身に広がる慢性的な痛み(3か月以上持続)
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朝のこわばりや関節痛に似た症状
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睡眠の質の低下(熟睡できない)
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強い倦怠感、集中力低下、頭痛、過敏性腸症候群などの併存症状
特徴的なのは「痛みの部位が移動したり変化する」こと。整形外科やリウマチ科を受診しても異常が見つからず、最終的に線維筋痛症と診断されるケースが少なくありません。
診断基準
日本では「アメリカリウマチ学会(ACR)2010改訂診断基準」が主に使用されています。
以下の2つのスコアを組み合わせて評価します。
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WPI(広範痛スコア):痛みの部位数を0〜19点で評価
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SS(症状重症度スコア):疲労・睡眠障害・認知症状などを0〜12点で評価
合計スコアが基準を満たし、他の疾患で説明できない場合に線維筋痛症と診断されます。
原因と病態の理解
線維筋痛症の原因は「神経の感作(central sensitization)」と呼ばれる痛みの増幅が主因と考えられています。
つまり、末梢組織の損傷ではなく、脳や脊髄の「痛み信号処理システム」が過敏になっている状態です。
主な病態メカニズム:
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脳内セロトニン・ノルアドレナリン系の異常
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視床下部-下垂体-副腎系(HPA軸)の機能低下
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睡眠障害による疼痛閾値の低下
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ストレス・感染・外傷などの誘因
MRIやPETによる脳画像研究では、線維筋痛症患者の「島皮質・前帯状皮質」で活動の亢進が確認されています(参考文献1)。
治療の基本方針
日本では「多面的アプローチ」が推奨されています。単独治療では十分な効果が得にくいため、薬物療法・非薬物療法を組み合わせます。
薬物療法(保険適応を中心に)
| 薬剤名 | 作用機序 | 特徴 |
|---|---|---|
| プレガバリン(リリカ) | 神経興奮抑制 | 日本で唯一、線維筋痛症に保険適応あり |
| デュロキセチン(サインバルタ) | SNRI | 慢性疼痛と抑うつを併せ持つ患者に有効 |
| アミトリプチリン | 三環系抗うつ薬 | 海外では第一選択の一つ(低用量投与) |
| トラマドール | 弱オピオイド | 短期使用で効果あり。ただし依存に注意 |
NSAIDsやステロイドは効果が乏しく、長期使用は推奨されていません。
非薬物療法
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認知行動療法(CBT):痛みの受け止め方を再構築
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有酸素運動(ウォーキング・ヨガ・ストレッチ):痛みの閾値を上げる
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睡眠衛生指導:夜間の覚醒を減らし疼痛を軽減
これらの併用が**国際的ガイドライン(EULAR 2016)**でも最も推奨されています(推奨度A)。
治療のゴール
「痛みをゼロにする」ことよりも、「痛みと共に生活の質を維持する」ことが現実的な目標です。
定期的な運動や睡眠リズムの安定が、薬物療法と並んで最も再発予防効果が高いとされています。
線維筋痛症は「心の病」ではない
かつて「心因性」と誤解されることもありましたが、現在では中枢神経系の機能的異常に基づく疾患として明確に分類されています。精神的要素は増悪因子にはなりますが、原因ではありません。
まとめ
線維筋痛症は、痛みの「過敏な神経回路」が原因となる慢性疾患です。
診断には専門的な評価が必要で、治療は薬物と非薬物を組み合わせることが鍵となります。
自己判断で鎮痛剤を増量するのではなく、専門医や内科での継続的なフォローが大切です。
参考文献(エビデンス)
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Jensen KB et al. Pain. 2013;154(1):68–75.
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Häuser W et al. EULAR revised recommendations for the management of fibromyalgia. Ann Rheum Dis. 2017;76(2):318–328.
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日本リウマチ学会 線維筋痛症診療ガイドライン2023.
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Arnold LM et al. Treatment of fibromyalgia: Meta-analysis of randomized trials. JAMA. 2020;323(4):365–380.
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