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緑内障と診断されたら使えない薬がある?内科医が解説する「緑内障禁忌薬」の正しい知識

この記事の要点

  • 添付文書に「緑内障禁忌」と記載されている薬剤は、処方薬全体の約6.2%(約1,330剤)に及ぶ
  • 2019年6月の厚生労働省通知により、抗コリン薬の禁忌対象は「緑内障」から「閉塞隅角緑内障」に改訂された
  • 日本人の緑内障の約90%は開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障を含む)であり、抗コリン薬の使用制限が不要なケースが大多数を占める
  • ステロイド薬による眼圧上昇(ステロイド緑内障)は隅角のタイプに関係なく起こりうるため、別枠の注意が必要
  • 緑内障と診断されたら、まず自分の「隅角タイプ」を眼科医に確認しておくことが最も重要

はじめに:「緑内障なので薬が出せません」は正しいのか?

内科の診察室で「緑内障の治療を受けていますか?」と聞かれた経験のある方は多いのではないでしょうか。薬局でも「緑内障はないですか?」という確認は日常的に行われています。

この質問の背景には、多くの薬剤の添付文書に「緑内障の患者には禁忌」という記載があることがあります。しかし、この「緑内障禁忌」という記載は、長年にわたって過度に広い範囲で適用されてきた歴史があり、2019年に厚生労働省から添付文書の改訂通知が出されています。

本記事では、内科医の視点から、緑内障の患者さんが日常的に遭遇する「この薬は使えるのか?」という疑問を、病態の基礎から整理して解説します。


緑内障の基本:なぜ「タイプ」の区別が重要なのか

緑内障とは

緑内障は、眼球内を循環する「房水」の排出が何らかの原因で妨げられ、眼圧が上昇(あるいは正常範囲でも視神経が脆弱な場合に)して視神経が障害される疾患です。日本における中途失明原因の第1位を占めています。

開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障

房水が排出される部位を「隅角」と呼びます。緑内障は隅角の状態によって大きく2つに分類されます。

開放隅角緑内障は、隅角は広く開いているものの、線維柱帯(房水のフィルター部分)の抵抗が高いことで眼圧が上昇するタイプです。日本人の緑内障の約90%がこのタイプに該当し、そのうちの大多数が眼圧は正常範囲内の「正常眼圧緑内障」です。

閉塞隅角緑内障は、隅角が構造的に狭く、虹彩が隅角を塞ぐことで房水の排出が急激に妨げられ、眼圧が急上昇するタイプです。日本人の緑内障全体の約12%とされています。

この2つのタイプの区別が、薬剤の使用可否を判断する上で最も重要なポイントです。


日本人の緑内障の実態:多治見スタディのデータ

日本緑内障学会が岐阜県多治見市で実施した大規模疫学調査(多治見スタディ)は、日本人の緑内障の実態を明らかにした画期的な研究です。主要な知見は以下のとおりです。

40歳以上の日本人における緑内障有病率は5.0%であり、20人に1人が緑内障を有しています。年齢別では40代で2.2%、50代で2.9%、60代で6.3%、70代で10.5%と加齢とともに増加します。

発見された緑内障の約93%は、それまで緑内障と診断されていなかった未発見例でした。緑内障患者の約72%は正常眼圧緑内障であり、自覚症状がないまま進行するケースが圧倒的に多いことが明らかになっています。

つまり、「緑内障と診断されている」時点で眼科に通院している方は、自分の隅角タイプを確認できる状態にあります。一方、未診断の方は自分が緑内障であること自体を知りません。添付文書上の「緑内障禁忌」が実効性を持つのは、眼科で診断・管理されている患者さんに限定されるという構造的な問題があります。


2019年添付文書改訂の要点

改訂の経緯

令和元年(2019年)5月31日に開催された薬事・食品衛生審議会安全対策調査会の審議結果を踏まえ、同年6月18日付で厚生労働省から添付文書の改訂指示が出されました。

改訂内容

改訂のポイントは3点です。

第1に、抗コリン作用を理由に「緑内障」が禁忌に設定されていた薬剤について、禁忌対象を「閉塞隅角緑内障」に変更すること。

第2に、「開放隅角緑内障」の患者については新たに「慎重投与」として追記すること。急性緑内障発作のリスクは完全には否定できないものの、臨床的に問題となる可能性は低いという判断です。

第3に、添付文書上の「狭隅角緑内障」という用語を「閉塞隅角緑内障」に統一すること。緑内障診療ガイドライン(第2版以降)の表記に合わせた変更です。

日本眼科学会からの見解として、Shaffer分類でGrade 3以上の開放隅角において急性緑内障発作を起こすことは基本的にないとされています。ただし、Grade 1~2の狭隅角眼の患者については、抗コリン薬投与により隅角閉塞が生じる可能性は否定できないとされました。


内科で処方される「緑内障禁忌薬」の具体例と判断

抗コリン作用を持つ薬剤(閉塞隅角緑内障に禁忌)

抗コリン薬は、ムスカリン性アセチルコリン受容体M3を遮断することで瞳孔括約筋を弛緩させ、散瞳を生じます。この散瞳によって隅角が狭くなり、閉塞隅角緑内障では急性発作を誘発する可能性があります。該当する薬剤カテゴリーは多岐にわたります。

総合感冒薬では、PL配合顆粒が代表例です。含有されるプロメタジンメチレンジサリチル酸塩に抗コリン作用があります。2019年の改訂により、禁忌対象は閉塞隅角緑内障のみに限定されました。

抗ヒスタミン薬では、第一世代(クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンなど)は抗コリン作用が強く閉塞隅角緑内障に禁忌です。一方、第二世代(フェキソフェナジン、ロラタジン、セチリジンなど)は抗コリン作用が弱く、禁忌指定がありません。ただし第二世代でもメキタジンは禁忌指定があるため、一律には判断できません。

消化器系の鎮痙薬では、ブスコパン(ブチルスコポラミン)が代表的です。添付文書上、閉塞隅角緑内障に禁忌と明記されています。

精神神経系薬剤では、ベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパム、エチゾラム、ゾルピデムなど)、三環系抗うつ薬(アミトリプチリン、イミプラミンなど)、抗パーキンソン薬(トリヘキシフェニジルなど)が該当します。

排尿障害治療薬では、バップフォー(プロピベリン)、ベシケア(ソリフェナシン)などの過活動膀胱治療薬が含まれます。

気管支拡張薬では、イプラトロピウム、チオトロピウムなどの吸入抗コリン薬が該当します。

循環器薬では、ジソピラミド(リスモダン)などの抗不整脈薬、硝酸薬(ニトログリセリン)の一部が含まれます。

開放隅角緑内障の患者さんへの対応

上記の薬剤は、開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障を含む)の患者さんでは「慎重投与」ですが、禁忌ではありません。臨床的に急性緑内障発作を起こすリスクは極めて低いとされています。

ただし、自分の隅角タイプが不明な場合は安易に判断せず、眼科で隅角検査を受けることが推奨されます。

緑内障のタイプに関係なく注意が必要な薬剤:ステロイド薬

ステロイド薬による眼圧上昇は、抗コリン薬とは全く異なるメカニズムで生じます。ステロイドは線維柱帯の細胞外成分の蓄積や食作用の阻害を通じて房水の流出抵抗を増大させるため、開放隅角・閉塞隅角を問わず眼圧上昇を引き起こしうるのが特徴です。

ステロイド薬の投与によって眼圧が上昇しやすい体質の方を「ステロイドレスポンダー」と呼びます。一般人口の約4~6%に存在すると報告されており、小児ではさらに高頻度です。ステロイドレスポンダーかどうかは事前に判定する方法がなく、実際にステロイドを使用して眼圧の変化を確認するしかありません。

投与経路別の眼圧上昇リスクとしては、点眼が最もリスクが高く、次いで眼瞼周囲への軟膏塗布、眼周囲注射と続きます。内服や吸入による全身投与でも眼圧上昇は報告されていますが、点眼と比較すると頻度は低いとされます。

0.1%デキサメタゾン点眼では、正常者の5~6%に高度の眼圧上昇、約30%に中等度の眼圧上昇が認められるとの報告があります。眼圧上昇はステロイド使用開始後数週間で始まり、30~40mmHg程度まで上昇することもあります。

ステロイド使用を中止すれば多くの場合は数週間で眼圧は正常化しますが、長期間の眼圧上昇が続いた場合は中止後も眼圧が高止まりすることがあります。また、一度失われた視野は回復しないため、早期発見が極めて重要です。

内科でステロイドの内服を長期処方する場合、皮膚科でステロイド軟膏を顔面に使用する場合、耳鼻科でステロイド点眼を処方する場合など、眼科以外の診療科でのステロイド使用時にも定期的な眼圧測定を推奨すべきです。


緑内障連絡カードの活用

日本眼科医会は2020年に、日本緑内障学会の監修のもと「緑内障連絡カード」を作成しました。2023年6月に改訂され、記載内容がシンプルになっています。

カードには「開放隅角」か「閉塞隅角(狭隅角を含む)」かの病型、「使用制限なし」か「使用を控える」かの薬剤使用可否、「虹彩切開術または白内障手術」の済・未が記載されます。

このカードを眼科で記入してもらい、内科や薬局で提示することで、適切な処方判断が可能になります。緑内障と診断されている患者さんには、眼科主治医にカードの発行を依頼するよう勧めてください。


閉塞隅角緑内障でも薬が使えるようになる場合がある

閉塞隅角緑内障と診断されていても、レーザー虹彩切開術や白内障手術を受けた後は隅角が開放されるため、抗コリン薬の使用制限がほぼなくなります。

白内障手術では水晶体を眼内レンズに置換することで虹彩が後退し隅角が開大します。これにより、それまで閉塞隅角であった患者さんも開放隅角の状態になるため、散瞳による急性発作のリスクは大幅に低下します。

したがって、閉塞隅角緑内障の患者さんであっても「一律に薬が使えない」わけではなく、治療歴によって判断が変わります。


緑内障発作が起きたらどうなるか:知っておくべき症状

急性緑内障発作は閉塞隅角緑内障で生じる緊急疾患です。眼痛、頭痛、嘔吐、視力低下、結膜充血、角膜の混濁といった症状が急激に出現します。

特に注意すべき点は、頭痛や嘔吐が主症状となった場合、内科を受診して頭蓋内疾患や消化器疾患と誤診される可能性があることです。片側性の眼痛を伴う急激な頭痛・嘔吐で、結膜充血や瞳孔散大を認めた場合は急性緑内障発作を疑い、速やかに眼科へ紹介する必要があります。


内科受診時に伝えるべきこと

緑内障の治療を受けている方が内科を受診する際には、以下の情報を伝えていただくことで、安全かつ適切な処方が可能になります。

自分の緑内障のタイプ(開放隅角か閉塞隅角か)、レーザー虹彩切開術や白内障手術の既往があるかどうか、眼科の主治医から薬の使用制限について説明を受けているかどうかの3点です。可能であれば緑内障連絡カードを持参いただくのが最も確実です。

「緑内障があります」という情報だけでは、処方する側は安全側に振って多くの薬を避けざるを得ません。タイプの情報があれば、不要な処方制限を回避できます。


まとめ

緑内障禁忌薬の問題は、2019年の添付文書改訂を経て整理されつつありますが、現場での認知はまだ十分とはいえません。ポイントを整理すると、抗コリン薬の禁忌対象は「閉塞隅角緑内障」であり、開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障を含む)では「慎重投与」にとどまります。日本人の緑内障の約90%は開放隅角タイプであり、多くの方では抗コリン薬の使用制限は不要です。

ステロイド薬による眼圧上昇は隅角タイプに関係なく生じうるため、長期使用時は眼科での定期的な眼圧チェックが必要です。

緑内障の患者さんは眼科で自分の隅角タイプを確認し、緑内障連絡カードを活用することで、必要な薬が適切に使える環境をつくることができます。


参考文献

  1. 厚生労働省医薬・生活衛生局. 抗コリン作用を有する薬剤における禁忌「緑内障」等に係る「使用上の注意」の改訂について. 令和元年6月18日付薬生安発0618第2号.
  2. 厚生労働省. 重篤副作用疾患別対応マニュアル 緑内障. 平成21年5月(令和元年9月改定).
  3. 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日本眼科学会雑誌.
  4. Iwase A, et al. The prevalence of primary open-angle glaucoma in Japanese: the Tajimi Study. Ophthalmology. 2004;111(9):1641-1648.
  5. 日本眼科医会・日本緑内障学会. 緑内障連絡カード(2023年改訂版). https://gankaikai.or.jp/info/glaucoma_information_card.pdf
  6. 厚生労働省. 医薬品・医療機器等安全性情報 No.364. 2019年7月.
  7. 臨床眼科. ステロイドレスポンダーの臨床的特徴. 臨眼62(9):1519-1522, 2008.

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