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猫ひっかき病とは?原因・症状・検査・治療を総まとめ

[2025.10.16]

猫に引っかかれたあとに数日~数週間してリンパ節が腫れる――。
このような経過を示す感染症が「猫ひっかき病(Cat scratch disease:CSD)」です。
原因菌は**Bartonella henselae(バルトネラ・ヘンセレ)**というグラム陰性桿菌で、感染経路・診断・治療方針は日本でも確立しています。


原因と感染経路

日本では、猫の約10〜30%がBartonella henselaeを保菌していると報告されています。
感染は猫の爪や歯についた菌がヒトの皮膚に侵入することで起こります。特に子猫(1歳未満)では菌の保有率が高いとされています。

主な感染経路は以下の通りです。

  • 猫に引っかかれる、または咬まれる

  • 感染猫の唾液が皮膚の傷口や粘膜に付着

  • まれに猫ノミ(Ctenocephalides felis)を介した間接感染

人から人への感染は報告されていません。


症状の経過

典型的な猫ひっかき病は以下のような経過を取ります。

  1. 潜伏期間:3〜10日(平均7日)
     感染部位に小さな紅斑や丘疹が出現。

  2. 局所リンパ節腫脹:1〜3週間後
     最も特徴的な症状で、痛みを伴うことが多い。
     好発部位は腋窩、頚部、鼠径部など。

  3. 全身症状:発熱・倦怠感・関節痛など(約30%)
     小児では一過性の発熱や発疹を伴うことも。

  4. 経過:多くは自然軽快(2〜4週間)
     ただし免疫低下例では重症化することがあります。


合併症・非典型例

猫ひっかき病の約10%前後は非典型的経過を取ります。
特に以下の病型は注意が必要です。

病型 主な症状 特徴・備考
神経型 脳炎、脳症、末梢性ニューロパチー 小児に多く、けいれんや意識障害を呈する
眼型(パリノー症候群) 結膜炎+同側リンパ節腫脹 片側性の結膜炎が特徴
肝・脾病変型 発熱、肝脾腫 画像で多発性低吸収域を認める
骨関節型 骨髄炎、関節炎 長期経過を取ることも
免疫不全例(HIVなど) 血管腫様病変(bacillary angiomatosis) 出血性結節が全身に出現し致死的経過も

診断

1. 臨床経過と曝露歴

  • 猫との接触歴(特に子猫)

  • 典型的な皮疹+単発性リンパ節腫脹

2. 血清学的検査

  • Bartonella henselae抗体(間接蛍光抗体法、IFA)
     → 抗体価上昇(1:64以上)で診断的価値あり。

  • PCR法による同定も可能だが、保険適用外。

3. 画像・病理

  • エコーやCTで腫大リンパ節の膿瘍形成を確認。

  • 病理で「肉芽腫性炎症+星芒状微小膿瘍」が特徴的。


治療

多くの例では自然軽快しますが、症状が強い場合や全身型では抗菌薬治療を行います。

第1選択薬

  • アジスロマイシン(500 mg 1日1回、5日間)

その他の選択肢

  • ドキシサイクリン、リファンピシン(免疫不全例など)

  • 小児や妊婦ではマクロライド系が安全

膿瘍形成例では穿刺排膿が有効な場合もあります。
なお、ステロイドの routine 使用は推奨されません。


予防

  • 猫と遊ぶ際は引っかかれないよう注意

  • 引っかかれた場合はすぐに流水と石けんで洗浄

  • 感染猫のノミ対策を行う(動物病院での駆除処方)

  • 小児・免疫低下者では特に子猫との濃厚接触を避ける


鑑別診断

疾患 鑑別ポイント
化膿性リンパ節炎 溶連菌、黄色ブドウ球菌感染。より高熱で急性経過。
結核性リンパ節炎 亜急性、皮膚瘻孔形成あり。
トキソプラズマ症 猫接触歴ありでもリンパ節腫脹が広範囲。
伝染性単核球症 咽頭痛、肝脾腫、異型リンパ球出現。EBウイルス抗体で鑑別。

まとめ

猫ひっかき病は多くが自然軽快する良性疾患ですが、
非典型例では脳炎・肝脾病変・血管腫様病変など重篤化することがあります。
特に免疫低下患者では早期診断と抗菌薬治療が重要です。
「猫に引っかかれた後のリンパ節腫脹」は、安易に抗生剤や切開に走らず、
まずBartonella感染を疑うことが臨床上のポイントです。


参考文献(エビデンス)

  1. 日本感染症学会. Bartonella感染症ガイドライン, 2023年版.

  2. Carithers HA. Cat-scratch disease: an overview based on a study of 1,200 patients. Am J Dis Child. 1985;139(11):1124–1133.

  3. Florin TA et al. Cat scratch disease. Curr Opin Pediatr. 2008;20(1):94–99.

  4. Rolain JM et al. Recommendations for treatment of human infections caused by Bartonella species. Antimicrob Agents Chemother. 2004;48(6):1921–1933.

  5. 山本容正ほか. 猫ひっかき病の国内臨床例報告と抗体価解析. 感染症学雑誌. 2019;93(2):145–152.


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